技術部長挨拶(平成13年度)

技術部長  電気工学専攻  教授 荒木 光彦

 

 大学の使命は教育と研究である。このことは昨今の大学改革の嵐の中においても継承されていくものと考える。教育は大学院生,学部生,科目等履修生,研究生,研修生などの学生と教授・助教授・講師・助手などの教官との間の相互作用の中に成立する。また,研究は研究者としての教官とそれぞれの研究対象・学会・近接分野の研究者等との相互作用の中で生み出されていく。

 上の意味で,学生と教官とが大学の中心的構成員と考えられている。しかし,学生と教官の間の上記のような単純な構図が必ずしも実態を正確に表しているものではないこと,および大学はこの2集団だけで成り立っているものではないことには,十分な注意が払われねばならない。教官が学生から学び,また学生が即研究者になっているといった事象は日常茶飯に観察される。また,大学における活動が,事務的側面において事務職員の,技術的側面において技術職員の支援を受けて成立していることも明らかである。この中,事務的支援者については,昨今の大学改革の議論の中でその重要性がクローズアップされている。すなわち,私学のみならず国立大学においても経営的側面が重視されるべきであるという考えの下で,事務的な機構の弾力化と機能の強化とが唱えられている。これに対して,技術的支援者について語られることは極めて少ない。これは,その重要性に鑑みまことに残念なことであり,日本の科学技術の将来を危うくするものではな いかと危惧するものである。

 大学における技術職員は,基本的に教育・研究に対する技術的支援者であると位置づけられよう。しかし,学生や教官の場合と同様,技術職員が常に技術支援者にとどまるものではない。場合と状況に応じ,教育者・研究者としての役割を果たすことも多い。また,その能力の向上のためには学生たる意識を常に保持していることも重要である。このような技術職員の存在は,大学の教育・研究の活性に大きな影響を与える。私が滞在していたロンドンの Imperial College 計算制御学科の制御セクションでは,大学院レベルにおいても授業の実験環境はすべて技術職員の手で整えられていた。また,計算機環境の方は,上級技術職員の指導の下に臨時技術職員と大学院生の協力でアップデートされていたようである。その上級技術職員は、その後 Technical College の教授として転出したと聞いている。このように、主として技術職員が教育・研究環境の整備を行い,またその技術職員に対しても独立した教育者・研究者としての道が開かれているということが, Imperial College の教育・研究レベルの維持・向上の大きな原動力となっていたことは疑いがない。

 これに対し,我が国の技術職員は,その数においても将来の可能性においても、大幅に見劣りがする状況と言わざるを得ない。その中でも,京都大学の工学部は,他の国立大学と比べてさらに技術職員の数が少ない。このような状況の中,当技術部は,技術職員の仕事の円滑化,技能の向上,処遇の改善,将来の展望等について可能な限りの努力をしていく必要があると考えている。皆様のご支援を御願いする次第である。